月琴帖
〜月琴、初心者のための手帖〜
最終更新日:2006年8月1日
月琴とは僕が現在修行中の中国民族楽器のことであ
る。そしてこのホームページ
『月琴帖』は、初心者が初めて月琴を手にしてから、弾けるようになるまでの手帖となるように、また僕の練習のための覚え書きとして開設したものである。
月琴
■選択と購入
なにか楽器をやりたいと思ったときに必ず最初に壁として立ちはだかるのは「なんの楽器をやろう?」という問題であろう。僕がこの問題を考えたときには、
僕がモノを選択するときの常でいくつかの条件を立ててから探した。その条件とは…
1、音の仕組みが簡単で弾きやすい
2、そんなに手入れをしなくても腐らずに長持ちする
3、マイナーな楽器
の三つである。3の条件を提示したときに既にギターとかヴァイオリン、ピアノといったメジャーで近所の犬猫でもやっている楽器は候補から外された。その
か
わりにマ
イナーということで候補にあがったのは民族楽器の数々である。そして2の条件により唾液がたまることで竹が腐る管楽器や蛇や猫などの動物の皮を使う楽器は
除外された。だんだんと探していくうちに昔、友達に借りて読んだ『ヨコハマ買出し紀行』に描かれていた月琴がいいのでは?と心が定まってきた。そ
れなりに歴史もあるし形も魅力的だし、なにより名前がいい。そして調べてみると1の条件にも十分該当する。そのため買うことを決意し中国屋楽器店で月琴を
売っていることを知ってそこで購入し
た
■歴史
月琴の原型は琵琶であった。琵琶とはユーラシア大陸東部に広がった弦楽器の
一種でウードやリュートとは親戚関係にある撥弦楽器のこと。ちなみにウードとはアラブの楽器である。ウード( عود
)とはアラビア語で「木片」を意味し、中世期の演奏の際に木片を組み合わせてウードを作ったことに由来する。そのウー
ド( عود
)にアラビア語の定冠詞がついてアルウード( العود )、そして訛って欧州のリュートになった。
その広域で愛され改良された楽器、琵琶が様々な影響を受けて派生し「竹林の七賢」の一人阮咸
に愛されたという阮咸琵琶が産まれた。そしてその阮咸琵琶の棹が短くなって月琴となったのだ。明治時代の日本では中級婦人の稽古楽器としてもてはやされ
たが日清戦争後に衰退した。一方、本土の中国では伝統が残り1950年代に改良が加えられ現在の形になった。もともと四弦で、二弦づつ調弦した複弦(2
コース)である。僕が購入
したのは3弦の現代風月琴であったが4弦に加工してもらった。
■調弦
購入後、弾くために最初にしなければいけないのが調弦である。弦をきつく張れば音は高くなり緩めれば音は低くなる。その原理を利用して弦を三本ないし四
本張り、お互
いの音のつらなりが音階をなぞるようにする。それは弾き手の好みによって自由に変えることができる。普通は市販の二弦で一弦をAにして張り、市販の三弦で二弦をDにして張り、市販の四弦で三弦をAにして張ればいい。
まずAとかDが分からないと思う。これは音の名前であり小学校で習うドレミや、音符が読めない僕が月琴で使用する数字譜(簡譜)を音名対応表にするとこ
うなる。音の高さがわからないいわゆる音痴(僕も含めて)は、わからなければ電子チューナーでも買ってきて説明書どおりに操作すればいい。
|
Do
|
Re
|
Mi
|
Fa
|
So
|
La
|
Si
|
英
|
C
|
D
|
E
|
F
|
G
|
A
|
B
|
和
|
ハ
|
ニ
|
ホ
|
ヘ
|
ト
|
イ
|
ロ
|
数
|
1
|
2
|
3
|
4
|
5
|
6
|
7
|
もしくは一弦の五品目の音と二弦の解放弦が同じになるように、また二
弦の七品目と一弦の解放弦が同じになるようになればいい。この二つさえあわせていれ
ばAとかDを合わせなくてもいい。
市販の一弦を使わないで全体的にズラして使用したの
は中国屋楽器店の店員さんのオススメによるもので、三弦と一弦の音のブレを無くすため。中国本土の演奏家もそう調弦しているらしい。僕の調弦はちょっと特
殊で市販の二弦で一弦を複弦(2コース)でAにして張り、市販の三弦で二弦をDにして張り、市販の四弦で三弦をAにして張っている。一弦を複弦にしたのはどうしても複弦を作りたかっ
た僕の工夫であ
る。
二弦づつ複弦にする時は指の
負担を考えて市販の一弦と二弦を複弦にすると聞いたの
で三本のうち市販の二弦を使う一弦を複弦にしたのだ。
それに高音が重複して聴こえると単純に心地よい、という事情もある。
三弦
|
二弦
|
一弦b
|
一弦a |
弦位置
|
四弦
|
三弦
|
二弦
|
二弦
|
使用弦
|
A
|
D
|
A
|
A
|
解放音
|
琴杵部
■弾き方
初心者のうちは音をだせないことが多い。一般に月琴などの撥弦楽器は弦の振動する長さを変えることで音の高低を調整する楽器である。そのために品があ
る。品とは琴杵に弦と垂直にたくさんついている小板のこと。品が無い楽器(ウード・日本琵琶・三線・三味線)もあるけれどそれに比べると押さえる場所が分
かっている月琴
は親切で簡単な部類に入る。注意点は品と品の中間の弦を左手の指の腹で強く押さえて弦が品に押さえつけられるようにすること。そうしてピック、なかっ
たら右手の指で品に押さえている弦を弾けば音が出るはず。同じ弦で軸のほうの品を押さえると音が低く、胴のほうの品を押さえると音が高くなる。
■A調
「調」とはなにかというと、小学生のときピアノで「ド」の鍵盤がたとえば「ド」を出したり「ソ」を出したりする決まりのこと。音なんて基本的には音の高
さの関係に過ぎないのだから、この鍵盤(品)ならこの音という決まりなんて無くて調によって変化する。こうやって一々調を変
えるのは面倒くさいので僕は基本的にA調でしか弾かない。数字譜でいうところの1と高い1の場所が解放音で揃っていて覚えやすいし指も戸惑うことが無いか
らだ。これが正しい練
習法なのかはわからないし、いろいろ調があるのだから試してもいいはずなのだが面倒くさいしややこしいのでやらない。以下A調の運指を記す。それと、いき
なり1などと言われて困ったかもしれないがこれはドの音ということである。上の音名対応表を参照してほしい。ピアノで黒鍵(半音)がないところ、3(ミ)
と4(ファ)、7(シ)と1(ド)の間には空きの品がない。こういったところはピアノとの共通点である。
音は低いほうから、12345671234567
(1は高い1ということ。)
三弦
|
二弦
|
一弦
|
|
1
|
4
|
1
|
解放
|
|
|
|
一品
|
2
|
5
|
2
|
二品
|
|
*
|
|
三品
|
3
|
6
|
3
|
四品
|
4
|
|
4
|
五品
|
|
7
|
|
六品
|
|
1
|
5
|
七品
|
|
|
|
八品
|
|
|
6
|
九品
|
|
|
|
十品
|
|
|
7
|
十一品
|
*半音について
現在製造されている月琴は西洋楽器、たとえばピアノと同じように半音で音階が構成されている。そのためピアノのシとドの間、ミとファの間に黒鍵がないよ
うに月琴も7と1、3と4の間には品がない。なので数字譜で5♯、6♭とあれば「5を半音あげたところ」で「6を半音さげたとこ
ろ」の品、
つまり表の*の品を押さえればいい。1♯だと三弦の一品目をおさえることになる。
■明清楽のための音階
以上に記した西洋音階の他にも明清楽の月琴のための音階と指の押さえ方がある。いわゆる工尺譜である。これは僕が所有している月琴の品でも弾けるかもし
れない。しかし、これは調によって変化する音に関係のない実際の指の押え方を現在の月琴より少ない品を持つ明清楽の月琴に合わせて記されたものだ。そのた
め明清楽の月琴を弾く際にはとても便利な譜面であるけれど、現代の月琴ではどうだかわからない。『ヨコハマ買出し紀行』劇中の月琴もたぶんこの工尺譜で弾
いたほうが分かりやすい種類の楽器だと思う。つまり西洋の音階ではなく東洋の音階を表すための楽譜なのだ。『月琴新譜 長崎明清楽のあゆみ』を参考にして
書いてみると
低音
|
高音
|
|
上
|
合
|
解放
|
尺
|
四
|
一品
|
工
|
乙
|
二品
|
凡
|
イ上
|
三品
|
イ合
|
イ尺
|
四品
|
|
イ工
|
五品
|
高音の三品・四品・五品には人偏がついている。楽譜により工をユ、合を六、四を五で表記する場合もあり、異名同音であ
る。そして、「合」と「イ合」を同じ
音に、「上」と「イ上」を高さの違う同じ音にするのだという。現代の月琴ではそれぞれの音がどう対応するのかは今のところ私にはわからない。一応「抹梨
花」という曲ではイタリア式と比較すると
上
|
尺
|
工
|
凡
|
合
|
四
|
乙
|
Si
|
Do
|
Re
|
|
Fa
|
So
|
|
となり「Fa」と「La」は使用されていなかったので対応音不明、となった。
■変調
たとえば三弦の月琴でA調の場合、指が自然に届く範囲ならば1・2・3・4・5・6・7、そして上の1・2・3・4かろうじて上の6まで半音を除けば計13個の音が弾ける。♯や♭を入れたら音はもっと
増える。しかしすべての曲がこの中に納まるわけではない。たとえば僕が弾いてみたかった、小学校や中学校の教科書にも載っている曲「小さな木の実」は下の
7から上の2までの曲で3弦A調では弾くことはできないのでD調などで弾く必要がある。
しかし運指を変えると覚えなおすのが面倒だという僕みたいなものぐさは、曲そのものの音を上げてしまえばいい。なんとなく余計手間がかかるのがお分かり
いただけると思うが一度A調で慣れてしまえばこれで弾きたいのが音楽初心者の悲しい性なのだ。しかしそのときに注意したいのが1を2に、3を4にそのまま
上げればよいわけではないということだ。以下はそのときに役立つ表である。背景が紫
の列を中心に上と下に一音、二音づつずらした場合の音の変調具合を記した。
半音は♭を使用せず♯のみを使用した。
5♯
|
6
|
6♯
|
7
|
1
|
1♯
|
2
|
2♯
|
3
|
4
|
4♯
|
5
|
5♯
|
6
|
6♯
|
7
|
6♯
|
7
|
1
|
1♯
|
2
|
2♯
|
3
|
4
|
4♯
|
5
|
5♯
|
6
|
6♯
|
7
|
1
|
1♯
|
1
|
1♯
|
2
|
2♯
|
3
|
4
|
4♯
|
5
|
5♯
|
6
|
6♯
|
7
|
1
|
1♯
|
2
|
2♯
|
2
|
2♯
|
3
|
4
|
4♯
|
5
|
5♯
|
6
|
6♯
|
7
|
1
|
1♯
|
2
|
2♯
|
3
|
4
|
3
|
4
|
4♯
|
5
|
5♯
|
6
|
6♯
|
7
|
1
|
1♯
|
2
|
2♯
|
3
|
4
|
4♯
|
5
|
■番外編
またはA調(改)として1〜の音域しかないA調に三弦の音を半音下げて下の7を付け加えても良い。これは一般的な調ではないけれど少しでも音域を広げる
ためには必要な努力で
あり、また独自の月琴を編み出すことができる。この自由さが月琴の利点でもある。自分の要求に合わせて工夫してみたらよいのだ。
A調(改)
三弦
|
二弦
|
一弦b
|
一弦a |
弦位置
|
四弦
|
三弦
|
二弦
|
二弦
|
使用弦
|
G#
|
D
|
A
|
A
|
解放音
|
三弦
|
二弦
|
一弦
|
|
7
|
4
|
1
|
解放
|
1
|
|
|
一品
|
|
5
|
2
|
二品
|
2
|
*
|
|
三品
|
|
6
|
3
|
四品
|
3
|
|
4
|
五品
|
4
|
7
|
|
六品
|
|
1
|
5
|
七品
|
|
|
|
八品
|
|
|
6
|
九品
|
|
|
|
十品
|
|
|
7
|
十一品
|